近年、富士山に代表される夏山登山の観光地化やイベントの開催地等、利用者が一時期に集中する地域では、未処理汚水や汚物による環境への悪影響が懸念されています。一方、水洗トイレに慣れ親しんでいる人々にとって、「汲み取り便所」の悪臭と不衛生感は我慢のならないものになりつつあります。平成7年に発生した「阪神・淡路大震災」では、多くの人々が学校や公園に避難しながら不便な生活を余儀なくされましたが、震災被害者とこれを支援するボランテイア達を最も悩ませたものは、トイレ施設の劣悪さであったとのことです。
自然環境への配慮とともに、より快適なトイレ施設を求める声は、年々強くなって来ております。このような社会的ニーズに応えるべく、電力や上水施設、下水道や浄化槽が整備されていない地域を中心に、『自己処理型トイレ』と云われるし尿処理システムが数多く設置され、普及しつつあります。
水洗式、コンポスト式、焼却乾燥式等々、処理方式は実に多様であり、これに対応した多くの製品群が提供されております。これら製品の共通項は、トイレと処理装置が一体型もしくは隣接する構造をなしているため、「便器から排出されたし尿をその場で処理することが出来る」のが大きな特徴です。
現状では、自己処理型トイレという名称や定義も明確ではありませんが、技術は着実に向上してきており、水使用量の低減と自然環境への負荷を大幅に削減できることから、持続可能な循環型社会を構築するための、有力なインフラになる可能性を秘めております。
しかし、これら製品群が登場した年月は比較的新しいため、社会的認知度が低いのは否めません。特に、設置者の側からすると、各処理方式の原理や維持管理方法が周知徹底されていないため、「どの製品を選択すればよいのか」判断に迷ってしまう状況にあります。
同時に、これら製品群の法的位置付けが曖昧なため、設置届出を受け付ける自治体の窓口では、ある種の混乱を来たしているのも事実であります。
かような事態を打開するため、平成16年2月に環境に配慮した「自己処理型し尿処理システム」の製品開発に携わる事業者が一同に集い、任意団体として『自己処理型トイレ研究会』を発足させ、まずは事業者のそれぞれの処理技術と製品の更なる改善、処理技術表示の規格化を図り、社会的信頼と認知度を高めることに努めました。
次のステップは、トイレを利用する一般ユーザーの利便を図るために、設置場所・設置条件・利用用途にあわせ、トイレを整備する自治体と民間企業との協力体制を構築することであります。そのためには新たな法律の整備、民間企業による施設の維持管理体制の整備などが必要とされ、自治体と地域社会との融合を促進させる役割が必要となります。その役割を担うため、当研究会は平成19年5月21日に特定非営利活動法人の認証を取得いたしました。
今後も責任を持った活動を行ってまいりたいと思いますので、『自己処理型トイレ』の設置を検討しておられる公共機関、山小屋の管理者及び「自己処理型トイレ事業者」におかれましては、本趣旨へのご理解と参画をお願いする次第であります。